声を出して一緒に読んでみましょう
桃太郎 Momotaro the Peach Boy /日本おとぎ話
作者不明 / 2003年8月27日作成 楠山正雄
第1章
むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。まいにち、おじいさんは山へしば刈(か)りに、おばあさんは川へ洗濯(せんたく)に行きました。
ある日、おばあさんが、川のそばで、せっせと洗濯(せんたく)をしていますと、川上(かわかみ)から、大きな桃(もも)が一つ、
「ドンブラコッコ、スッコッコ。
ドンブラコッコ、スッコッコ。」
と流(なが)れて来(き)ました。
「おやおや、これはみごとな桃(もも)だこと。おじいさんへのおみやげに、どれどれ、うちへ持(も)って帰(かえ)りましょう。」
おばあさんは、そう言(い)いながら、腰(こし)をかがめて桃(もも)を取(と)ろうとしましたが、遠(とお)くって手がとどきません。おばあさんはそこで、
「あっちの水(みいず)は、かあらいぞ。
こっちの水(みいず)は、ああまいぞ。
かあらい水(みいず)は、よけて来(こ)い。
ああまい水(みいず)に、よって来(こ)い。
と歌(うた)いながら、手をたたきました。すると桃(もも)はまた、
「ドンブラコッコ、スッコッコ。
ドンブラコッコ、スッコッコ。」
といいながら、おばあさんの前(まえ)へ流(なが)れて来(き)ました。おばあさんはにこにこしながら、
「早(はや)くおじいさんと二人(ふたり)で分(わ)けて食(た)べましょう。」
と言(い)って、桃(もも)をひろい上(あ)げて、洗濯物(せんたくもの)といっしょにたらいの中に入(い)れて、えっちら、おっちら、かかえておうちへ帰(かえ)りました。
夕方(ゆうがた)になってやっと、おじいさんは山からしばを背負(せお)って帰(かえ)って来(き)ました。
「おばあさん、今(いま)帰(かえ)ったよ。」
「おや、おじいさん、おかいんなさい。待(ま)っていましたよ。さあ、早(はや)くお上(あ)がんなさい。いいものを上(あ)げますから。」
「それはありがたいな。何(なん)だね、そのいいものというのは。」
こういいながら、おじいさんはわらじをぬいで、上に上(あ)がりました。その間(ま)に、おばあさんは戸棚(とだな)の中からさっきの桃(もも)を重(おも)そうにかかえて来(き)て、
「ほら、ごらんなさいこの桃(もも)を。」
と言(い)いました。
「ほほう、これはこれは。どこからこんなみごとな桃(もも)を買(か)って来(き)た。」
「いいえ、買(か)って来(き)たのではありません。今日(きょう)川で拾(ひろ)って来(き)たのですよ。」
「え、なに、川で拾(ひろ)って来(き)た。それはいよいよめずらしい。」
こうおじいさんは言(い)いながら、桃(もも)を両手(りょうて)にのせて、ためつ、すがめつ、ながめていますと、だしぬけに、桃(もも)はぽんと中から二つに割(わ)れて、
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
と勇(いさ)ましいうぶ声(こえ)を上(あ)げながら、かわいらしい赤(あか)さんが元気(げんき)よくとび出(だ)しました。
「おやおや、まあ。」
おじいさんも、おばあさんも、びっくりして、二人(ふたり)いっしょに声(こえ)を立(た)てました。
「まあまあ、わたしたちが、へいぜい、どうかして子供(こども)が一人(ひとり)ほしい、ほしいと言(い)っていたものだから、きっと神(かみ)さまがこの子をさずけて下(くだ)さったにちがいない。」
おじいさんも、おばあさんも、うれしがって、こう言(い)いました。
そこであわてておじいさんがお湯(ゆ)をわかすやら、おばあさんがむつきをそろえるやら、大(おお)さわぎをして、赤(あか)さんを抱(だ)き上(あ)げて、うぶ湯(ゆ)をつかわせました。するといきなり、
「うん。」
と言(い)いながら、赤(あか)さんは抱(だ)いているおばあさんの手をはねのけました。
「おやおや、何(なん)という元気(げんき)のいい子だろう。」
おじいさんとおばあさんは、こう言(い)って顔(かお)を見合(みあ)わせながら、「あッは、あッは。」とおもしろそうに笑(わら)いました。
そして桃(もも)の中から生(う)まれた子だというので、この子に桃太郎(ももたろう)という名(な)をつけました。