声を出して一緒に読んでみましょう
桃太郎 Momotaro the Peach Boy /日本おとぎ話
作者不明 / 2003年8月27日作成 楠山正雄
第3章
桃太郎(ももたろう)はずんずん行きますと、大きな山の上に来(き)ました。すると、草(くさ)むらの中から、「ワン、ワン。」と声(こえ)をかけながら、犬(いぬ)が一ぴきかけて来(き)ました。
桃太郎(ももたろう)がふり返(かえ)ると、犬(いぬ)はていねいに、おじぎをして、
「桃太郎(ももたろう)さん、桃太郎(ももたろう)さん、どちらへおいでになります。」とたずねました。
「鬼(おに)が島(しま)へ、鬼(おに)せいばつに行くのだ。」
「お腰(こし)に下(さ)げたものは、何(なん)でございます。」
「日本(にっぽん)一のきびだんごさ。」
「一つ下(くだ)さい、お供(とも)しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来(こ)い。」
犬(いぬ)はきびだんごを一つもらって、桃太郎(ももたろう)のあとから、ついて行きました。
山を下(お)りてしばらく行(い)くと、こんどは森(もり)の中にはいりました。すると木の上から、「キャッ、キャッ。」とさけびながら、猿(さる)が一ぴき、かけ下(お)りて来(き)ました。
桃太郎(ももたろう)がふり返(かえ)ると、猿(さる)はていねいに、おじぎをして、
「桃太郎(ももたろう)さん、桃太郎(ももたろう)さん、どちらへおいでになります。」とたずねました。
「鬼(おに)が島(しま)へ鬼(おに)せいばつに行くのだ。」
「お腰(こし)に下(さ)げたものは、何(なん)でございます。」
「日本(にっぽん)一のきびだんごさ。」
「一つ下(くだ)さい、お供(とも)しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来(こ)い。」
猿(さる)もきびだんごを一つもらって、あとからついて行きました。
山を下(お)りて、森(もり)をぬけて、こんどはひろい野原(のはら)へ出ました。すると空(そら)の上で、「ケン、ケン。」と鳴(な)く声(こえ)がして、きじが一羽(わ)とんで来(き)ました。
桃太郎(ももたろう)がふり返(かえ)ると、きじはていねいに、おじぎをして、
「桃太郎(ももたろう)さん、桃太郎(ももたろう)さん、どちらへおいでになります。」とたずねました。
「鬼(おに)が島(しま)へ鬼(おに)せいばつに行くのだ。」
「お腰(こし)に下(さ)げたものは、何(なん)でございます。」
「日本一(にっぽんいち)のきびだんごさ。」
「一つ下(くだ)さい、お供(とも)しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来(こ)い。」
きじもきびだんごを一つもらって、桃太郎(ももたろう)のあとからついて行きました。
犬(いぬ)と、猿(さる)と、きじと、これで三にんまで、いい家来(けらい)ができたので、桃太郎(ももたろう)はいよいよ勇(いさ)み立(た)って、またずんずん進(すす)んで行きますと、やがてひろい海(うみ)ばたに出ました。
そこには、ちょうどいいぐあいに、船(ふね)が一そうつないでありました。
桃太郎(ももたろう)と、三にんの家来(けらい)は、さっそく、この船(ふね)に乗(の)り込(こ)みました。
「わたくしは、漕(こ)ぎ手(て)になりましょう。」こう言(い)って、犬(いぬ)は船(ふね)をこぎ出(だ)しました。
「わたくしは、かじ取(と)りになりましょう。」
こう言(い)って、猿(さる)がかじに座(すわ)りました。
「わたくしは物見(ものみ)をつとめましょう。」
こう言(い)って、きじがへさきに立(た)ちました。
うららかないいお天気(てんき)で、まっ青(さお)な海(うみ)の上には、波(なみ)一つ立(た)ちませんでした。稲妻(いなづま)が走(はし)るようだといおうか、矢(や)を射(い)るようだといおうか、目のまわるような速(はや)さで船(ふね)は走って行きました。ほんの一時間(じかん)も走(はし)ったと思(おも)うころ、へさきに立(た)って向(む)こうをながめていたきじが、「あれ、あれ、島(しま)が。」とさけびながら、ぱたぱたと高(たか)い羽音(はおと)をさせて、空(そら)にとび上(あ)がったと思(おも)うと、スウッとまっすぐに風(かぜ)を切(き)って、飛(と)んでいきました。
桃太郎(ももたろう)もすぐきじの立(た)ったあとから向(む)こうを見(み)ますと、なるほど、遠(とお)い遠(とお)い海(うみ)のはてに、ぼんやり雲(くも)のような薄(うす)ぐろいものが見(み)えました。船(ふね)の進(すす)むにしたがって、雲(くも)のように見(み)えていたものが、だんだんはっきりと島(しま)の形(かたち)になって、あらわれてきました。
「ああ、見(み)える、見(み)える、鬼(おに)が島(しま)が見(み)える。」
桃太郎(ももたろう)がこういうと、犬(いぬ)も、猿(さる)も、声(こえ)をそろえて、「万歳(ばんざい)、万歳(ばんざい)。」とさけびました。
見(み)る見(み)る鬼(おに)が島(しま)が近(ちか)くなって、もう硬(かた)い岩(いわ)で畳(たた)んだ鬼(おに)のお城(しろ)が見(み)えました。いかめしいくろがねの門(もん)の前(まえ)に見(み)はりをしている鬼(おに)の兵隊(へいたい)のすがたも見(み)えました。
そのお城(しろ)のいちばん高(たか)い屋根(やね)の上に、きじがとまって、こちらを見(み)ていました。
こうして何年(なんねん)も、何年(なんねん)もこいで行(い)かなければならないという鬼(おに)が島(しま)へ、ほんの目をつぶっている間(ま)に来(き)たのです。