声を出して一緒に読んでみましょう
耳なし芳一 Miminashi-Hoichi/日本の物語
成立年:1894年 - 1904年/作者:小泉八雲 (パトリック・ラフカディオ・ハーン)
参考:(福娘童話集きょうの日本昔話・コモンズ紙芝居日記・英語で本三昧)
第4章
次の日も芳一は迎えに来た武者について、やかたに向かいました。
しかし、昨日と同じようにびわを弾いて寺に戻ってきたところを、和尚さんに見つかってしまいました。
「芳一、今頃まで、どこで何をしていたんだね?」
「・・・・・・」
「芳一」
「・・・・・・」
和尚さんがいくら尋ねても、芳一は約束を守って、ひとことも話しませんでした。
和尚さんは芳一が何も言わないのは、何か深いわけがあるにちがいないと思いました。
そこで寺男(てらおとこ→寺の雑用係)たちに芳一が出かけるような事があったら、そっとあとをつけるように言っておいたのです。
そして、また夜になりました。
雨が激しく降っています。
それでも芳一は、寺を出ていきます。
寺男たちは、そっと芳一のあとを追いかけました。
ところが目が見えないはずの芳一の足は意外にはやく、やみ夜にかき消されるように姿が見えなくなってしまったのです。
「どこへ、行ったんだ?」
と、あちこち探しまわった寺男たちは、墓地へやってきました。
ビカッ!
いなびかりで、雨にぬれた墓石が浮かびあがります。
「あっ、あそこに!」
寺男たちは、驚きのあまり立ちすくみました。
雨でずぶぬれになった芳一が、安徳天皇の墓の前でびわを弾いているのです。
その芳一のまわりを、無数の鬼火が取り囲んでいるではありませんか。
寺男たちは芳一が亡霊(ぼうれい)に取りつかれているにちがいないと、力まかせに寺へ連れ戻しました。