声を出して一緒に読んでみましょう
耳なし芳一 Miminashi-Hoichi/日本の物語
成立年:1894年 - 1904年/作者:小泉八雲 (パトリック・ラフカディオ・ハーン)
参考:(福娘童話集きょうの日本昔話・コモンズ紙芝居日記・英語で本三昧)
第6章
さて、芳一が座禅をしていると、いつもの様に亡霊の声が呼びかけます。
「芳一、芳一、迎えにまいったぞ」
でも、芳一の声も姿もありません。
亡霊は、寺の中へ入ってきました。
「ふむ。・・・びわはあるが、弾き手はおらんな」
あたりを見まわした亡霊は、空中に浮いている二つの耳を見つけました。
「なるほど、和尚の仕業だな。
さすがのわしでも、これでは手が出せぬ。
仕方ない。
せめてこの耳を持ち帰って、芳一を呼びに行ったあかしとせねばなるまい」
亡霊は芳一の耳に、冷たい手をかけると、
バリッ!
その耳をもぎとってしまいました。そして帰っていきました。
その間、芳一は痛みにたえながら、和尚さんの言いつけを守って、ジッと座禅を組んだままでした。
寺に戻った和尚さんは芳一の様子を見ようと、大急ぎで芳一のいる座敷へ駆け込みました。
「芳一! 無事だったか!」
じっと座禅を組んだままの芳一でしたが、その両の耳はなく、耳のあったところからは血が流れています。
「お、お前、その耳は・・・」
和尚さんには、全ての事がわかりました。
「そうであったか。
耳に経文を書き忘れたとは、気がつかなかった。
なんと、かわいそうな事をしたものよ。
よしよし、よい医者を頼んで、すぐにも傷の手当てをしてもらうとしよう」
芳一は両耳を取られてしまいましたが、それからはもう亡霊につきまとわれることもなく、医者の手当てのおかげで傷も治っていきました。
やがてこの話は口から口へと伝わり、芳一のびわはますます評判になっていきました。
びわ法師の芳一は、いつしか『耳なし芳一』と呼ばれるようになり、その名を知らない人はいないほど有名になったという事です。