声を出して一緒に読んでみましょう
竹取物語 The Tale of the Bamboo Cutter/日本おとぎ話
成立年・作者/不明
第4章
八月十五日、十五夜の日がきました。かぐや姫の言ったとおり、月から使いの者たちが来ました。
みんなとても美しい衣装を着て、空を飛ぶ車に乗っています。
使いの者の中に、王と思われる人がいて、家の中に向かった言いました。
「造麻呂、出て来い。」と言うと、勇ましくしていた翁(おきな)も、何かに酔ってしまったような気分になり、
うつぶせに倒れてしまいました。
王が言いました。
「おまえは、心おろかなものである。わずかばかりの善行をしたおまえを助けようとして、ほんのしばらくの間、かぐや姫をあずけようと思った。しかし、長い間に多くの黄金を得て、おまえは生まれ変わったようになってしまっている。
かぐや姫は罪を作ったので、このように賎しい(いやしい)おまえのところに、しばらくいらしたのだ。
かぐや姫は罪の償いのために下界に下りた期間が終わったので、こうしてかぐや姫を迎えに来ているのだ。
おまえが泣いたり嘆いたりしても、どうにもならない。早くお出し申せ。」と言う。
翁(おきな)は答えました。
「かぐや姫を二十年ほど育てて参りました。
あなたさまは、『ほんの少しの間』と仰るので、あなたが仰るかぐや姫は別のところにいる方でしょう。
「こおにいるかぐや姫は、重い病気にかかっているので、とても外には出られませぬ。」
王は翁(おきな)のその言葉には答えず、屋根の上に飛ぶ車を近づけて、
「さあ、かぐや姫よ。けがれた所に、どうして長くいて良いものか。」と言いました。
すると、かぐや姫を閉じ込めていた部屋の戸は、あっという間に開いてしまいました。
誰もさわっていないのに、すべての戸が勝手にあいてしまいました。帝(みかど)は人をつかわしていましたが、
何の役にも立ちません。
嫗(おうな)がかぐや姫を抱いていましたが、とてもそこに留まることができそうもないので、ただ外を見上げて泣くばかりです。
そして、かぐや姫は、翁(おきな)が心をかき乱し泣き伏せっているところに近寄って言いました。
「私の残りたい気持ちとは反対に、こうして月へ帰っていきます。せめて、月へ昇る間だけでもお見送り下さい。」
しかし、翁(おきな)は、「どうして、こんなに悲しいのに見送りができるのか。どうして私たちを見捨てて、月へ帰ってしまうのか。一緒に連れて行っておくれ。」と言って、泣き伏せました。
かぐや姫はその姿を見ると、また心が乱れてしまいました。
「手紙を書いて残します。私のことが恋しいときは、取り出してご覧下さい。」
かぐや姫はこう言って、泣きながら手紙を書きました。
「この国に生まれていたのであれば、最期までそばでお仕えいたしますが、
このように別れていくことをとても不本意に思います。
脱いで置いていく着物は、形見としてご覧下さい。
月が出ている夜は、その月を見て下さい。
お二人を残して帰っていく空から、私は落ちてしまいそうな気がします。」